イギリスの離脱によって揺れ動くユーロの価値

2020年2月20日

ユーロは、米ドルに次ぐ強い通貨として世界に普及しています。

しかし、今イギリスの離脱(ブレグジット)などの問題によりその価値、為替レートに大きな影響がもたらされることが懸念されています。

 

イギリス国内でも意見の分かれるEU離脱

ユーロは、EU(欧州連合)の通貨ですが、イギリスの離脱によりその貨幣価値に変動がもたらせようとしています。

そもそも、イギリスは何故、EUから離脱しようとしているのでしょうか?

EUは、ヨーロッパ全域の経済発展のために寄与して加盟国がお互いに協力するという理念のもとにつくられています。

しかし、加盟国の中にはかつてのギリシャのように莫大ば負債を抱えたり、ドイツのように難民問題で赤字が拡大している国があります。

イギリスが離脱したい理由は、EUの中で経済的に弱い国を助けるため経済援助を行わなければならないからです。

 

それでも、イギリスが独自に世界経済と渡り合っていけるだけの経済力をもっているかどうかは、経財界から懸念の声もあり、議会においても国民の間でも意見が分かれています。

イギリスは今年3月29日にEUを離脱する予定でしたが、テリーザ・メイ前首相とEUがまとめた協定が議会で否決されたため、離脱の期限が10月31日に延期されました。

ところが、8月9日にイギリスの国家統計局(ONS)は、2019年第2四半期(4~9月)の国内総生産(GDP)成長率が前期比0.2%縮小したと発表し、マイナス成長となるのは2012年9~12月期以来で初めてのこと。

為替取引市場では、景気後退(リセッション)への懸念からイギリスの通貨ポンド安が加速しました。

 

そして、10月29日にはイギリスの国立経済社会研究所(NIESR)は、イギリスがEUを離脱した場合、離脱しない場合に比べて年間700億ポンド(約9兆8000億円)の経済損失が見込まれるとする報告書を発表しました。

また、この報告書では、イギリスがEUを離脱すれば、10年後の経済成長は、EUに残留しなかった場合と比べ3.5%低くなるとみています。

この報告書によってイギリス議会はもちろんのこと、イギリス国内にもEUを離脱を反対する声が高まっています。

 

イギリス保守党の狙いは解散総選挙後に離脱協定承認

イギリス最大の野党である労働党は、離脱協定法案には離脱後に労働者の権利が損なわれる内容が含まれていると指摘して、EUの離脱について強く反対を表明しています。

そして、ボリス・ジョンソン首相は、イギリスのEU離脱期限を2020年1月31日に延期するというEUからの延期離脱案を受け入れました。

しかし、ジョンソン首相は、議会で離脱協定案の承認を取り付けるには解散総選挙が不可欠だとしています。

現在のイギリス与党である保守党は、野党が議決を拒否すれば議決をするのに必要な議席数には不足するため、解散総選挙をして保守党の議席数を増やすのがジョンソン首相の狙いです。

解散総選挙で保守党が圧勝すれば、1月31日の離脱期日までにイギリス議会で離脱協定を承認されれば、その時点で離脱が可能となります。

しかし、労働党のジェレミー・コービン党首は、離脱条件についてEUと合意しないまま離脱する「合意なし離脱」の可能性が完全に排除されない限り、政府の解散総選挙案を支持しないと表明しています。

仮に、解散総選挙後に保守党が多数の議席を確保して議会で離脱協定が承認されたとしても、二度目の国民投票が行われる可能性があります。

その場合は、最終的に国民投票で国民の過半数がEU離脱に賛成すれば、EU離脱が決定されることになります。

nbsp;

2020年1月31日、イギリスはEUを正式に離脱

イギリス議会最大野党労働党のジェレミー・コービン党首は、離脱条件についてEUと「合意のない離脱」の可能性がなくならない限り、総選挙には応じないという強鞭な姿勢を貫いてきました。

ところが、EUが離脱期限の延期に応じ、EU加盟各国から合意のない離脱の可能性はなくなったとの確約を得たため、総選挙に応じる姿勢を変更しました。

コービン党首は、「この総選挙はイギリスを変革し、国民を抑圧している既得権益を倒す一世一代のチャンスだ」とも語っています。

そして、イギリス下院は、ボリス・ジョンソン首相が提出した12月12日を解散総選挙の投票日とする法案を438対20の賛成多数で可決。続いて上院も同法案を可決。

その後、イギリス下院は11月6日に解散され、女王の裁可をとりつけ、12月12日に総選挙が行われました。

総選挙の結果、イギリス下院650議席中、与党の保守党が365(解散時298)まで議席を増やし圧勝。

一方、最大野党の労働党は243から203まで議席を減らすことになって、ジョンソン首相の狙い通りになったわけです。

ジェレミー・コービン党首は「労働党にとって実に残念な夜になった」とコメント。

2017年総選挙に続いて事実上の敗北を認め、党首として次回総選挙に臨むことはないと党首を辞任する意向をほのめかしました。

そして、イギリス下院で12月20日に行われたレグジット法案に関する初回採決では、同法案を賛成358、反対234の賛成多数で可決。

2020年1月9日に行われた最終採決でイギリス下院は同法案が可決され、2020
年1月31日をもってイギリスは47年間加盟EUを正式に離脱することが決定されました。

 

今後のEURの動向には注意が必要

イギリスが2020年1月31日の正式に離脱したとはいえ、11か月間の移行期間が設けられているため、しばらくは今までと同じ状態が続きます。

英国とEUは移行期間中、貿易から安全保障、さらにデータ保護を含むあらゆる領域で新たな包括的合意にために交渉することになります。

以上見てきたように、イギリスがEU離脱することでイギリスの経済が改善されるわけでもなく、イギリス議会の野党や国民の間では、まだまだEU離脱に全面的に賛成というわけでもありません。

現時点はまだはっきりしたことは言えませんが、イギリスがEUを離脱することで、EUR/JPYやEUR/USDの為替レー度が大きく変動する可能性があります。

今後の移行期間中もイギリスとEUとの交渉の進捗やボリス・ジョンソン首相の発言には注意しておく必要があります。

そのうえで大きな変動が見込まれるときは投資を控えるのが賢明な態度と言えます。

&